金融機関はなぜ国債を買うのか?

九〇年代後半を通じて、国は借金を増やし続けた。これに呼応して国へ貸し続けたのは金融機関だった。厳密には、民間の金融機関だけでなく、郵便貯金や年金の積立金などが元手になった公的金融機関も国にお金を貸し続けた。

一九九七年以降の日本経済におけるお金の流れを示している。矢印自体は九〇年代後半でもバブルのときでも、お金が流れる向きを表している。例えば、国民は企業で働いて所得を稼ぎ、そのうち消費して企業の作ったものを買い、残りを貯金する。貯金を預かった金融機関は、企業や国・地方自治体にお金を貸す。

企業は、借りたお金で生産設備のために投資し、労働者を雇って生産活動を営む。作ったものが売れれば、売上となりその一部は国民に所得として分配される。また、国や地方自治体は、国民から税金を徴収し、時にはお金を借りて、行政サービスや公共事業を行う。資本主義経済では、このようなお金の流れは常にある。ただ、問題は、どれぐらいのお金がどこからどこに向かって流れているかである。このお金の流れがうまくいかないと、経済活動が沈滞してしまう。

一九九七年以降の日本経済におけるお金の流れで、主だった流れを太線の矢印で示している。一九九七年以降の日本経済は、民間の消費が低迷した。なぜ消費が落ち込んだかは、後で詳しく述べることにしよう。

要約して先取りすれば、景気が低迷しリストラや倒産が相次いだことから、給料が減ったり失業したりして、将来得られる所得が減ると悲観的に予想して、将来のために貯金するべく今の消費を減らした、ということである。

この時期、消費を控えて貯金していたので、図のように、金融機関への貯金が太い矢印で表される状況となった。国民の貯金を預かった金融機関は、お金を企業にあまり貸さなかった。多額の不良債権を抱えるとともに、景気低迷で企業の経営が悪化して、とても企業に安心して貸せる状態ではなかった。

九七年以降は、民間企業に貸しているお金をむしろ引き揚げたぐらいである。民間企業はお金を貸してもらえなければ、当然新しいビジネスも興せないし、設備投資もできない。それに追い討ちをかけて、消費者は消費を手控えてしまったから、生産活動もままならない状態にさえ追い込まれた。利益が上がらないので従業員に対して給料を多くは払えない。給料をあまりもらえない国民は益々消費を控えるようになる。

そして、将来に備えて貯金しておこう、という具合に景気がよくならないお金の流れができて、悪循環に陥ってしまった。貯金を預かった金融機関は預金利子を払わなければならない。金庫にしまったままでは当然お金は増えないから、どこかで運用しなければならない。

しかし、安心できる貸付先が見つけられないでいた。そんな矢先に、小渕内閣になってから「国債を大量に発行します」と日本政府が言い出したのだ。待ってましたとばかりに金融機関は国債を買った。国債の場合、借り手が日本国政府だから必ず利子をつけて全額返済してくれるという信用があったし、国債の満期が来る前でも必要に応じてすぐに換金できる市場が整っていたため、安心して購入できた。

こうして、国民にとっては計らずも、国民の貯金が国の借金に充てられるという大量のお金の流れが出来上がってしまった。これは、民間の金融機関だけでなく、郵便貯金でも同じだった。さらには、国民が強制的に払わされる公的年金(厚生年金や共済年金)の積立金も、老後の年金給付に充てられるまでの間として、そのお金で国債を買った。

つまり、年金の積立金と称して徴収した国民のお金までもが、国の借金に充てられた。郵便貯金や公的年金は国営だから、その運用先は国が決める。だから、そのような結果になるのは避けられない部分がある。これに対して、民間金融機関は、預かったお金を大量に国に貸す必然性はどこにもない。

しかし、一九九〇年代後半の日本経済では、まさに郵便局と似たようなことを民間金融機関もやっていたのである。公的金融機関とともに、民間金融機関までもが、大量に国債を購入するという状態が、世界史上稀に見る低金利で国が大量に借金をし続ける現象を生んだのである。民間金融機関が民間企業にお金を貸さないことは、次のような意味で怠慢だという面がある。

つまり、民間金融機関が個別に企業の経営状態を自ら審査して、必要に応じてお金を貸すべきなのに、そうした厳密な審査を怠って民間企業に貸すのを安直に止めてしまったという意味である。しかし、民間金融機関も営利目的の民間企業だから、何とかして利益を上げなければならない。

企業の経営状態をきちんと見極めて的確に貸していればもっと儲かったはずだが、前に述べた金融危機の状況においては、安全確実に国に貸して最低限の利益を確保する経営戦略は、民間金融機関にとってやむを得ないものだったともいえる。だから、民間金融機関を責めることはできない。責めるとすれば、やはり小渕内閣が無節操に大量の国債を発行したことである。

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