このままでは巨額の赤字が続く

九八年度の第三次補正予算の成立と同時に、財政構造改革法も「当分の間」停止されることになった。凍結にあたっての趣旨説明では、財政構造改革を推進する基本的な考えは守る、ということだが、主要経費ごとにキャップをかけて中期的に財政健全化を進めるという予算のルールは、これですべてなくなってしまった。

歳入面では、九九年度に恒久的減税が行われ、所得税の最高税率と法人税率は、それぞれ三七%、三〇%とアメリカよりも低い水準に引き下げられ、両者はともに主要国で最低の水準となった。さらに住宅ローン減税の拡充などさまざまな政策減税が実施された。これにより、九九年度の税収は四七・一兆円と見込まれ、八七年度の水準に戻ってしまった。税収が九〇年度の水準に戻るには、名目経済成長率を三%、税収の弾性値を一・一と楽観的な想定を置いても、二〇〇七年まで待たねばならない。

さらにGDP比で九〇年度の水準に戻るのは二一二四年で、実に一〇〇年以上も先のことになる。アメリカでは、八一年のレーガン減税によって税収が落ち込み、対GDP比で減税前の水準にもどったのは、ブッシュ、クリントン両大統領によって増税が行われた後、所得税は九三年度、法人税はようやく九八年度になってからであった。

税の自然増収は、二〇〇三年でも一兆円前後に過ぎないであろう。そのほとんどは国債費の増加で吸収されてしまう。このため、地方交付税制度に改革が行われないと、自然増収で交付税と国債利払い費の増加分をまかないきれない状態に陥ってしまう。一般歳出が増えると、少なくともその分は国債が毎年増発されるという状態が続くことになってしまう。

高度成長期には、税の自然増収が国債費の増加と交付税の増加を補って余りがあり、新規政策費への充当、国債の減額、さらには減税に配分されていた。たとえば、一九六八~七〇年度の間には、年平均で一・二兆円の税の自然増収が発生した。

一方、地方交付税と国債費の増加は合わせて四四〇〇億円に過ぎなかった。そして当然増といわれた経費の自動的膨張に三〇〇〇億円を充当した残りを、新規政策費に二四〇〇億円、国債減額と減税にそれぞれ一〇〇〇億円を割り当てることができた。

しかし、税の自然増収で、国債発行を削減できるという右肩上がりの時代は、とっくの昔に終わってしまった。自然増収の伸びが鈍化した一方、国債累増とともに利払い費が増大してきた。また、人口高齢化に伴う社会保障費の自然増加分だけで三〇〇〇億円に達する。さらに利払い費は、今後増大せざるを得ない。国債がさらに累増していくことに加えて、やがて金利が上昇しかねないからである。

九八年までは、世界的な物価沈静の傾向と公定歩合の度重なる引き下げによって、市場の金利は低下を続けてきた。金融不安で国債が異常に選好されたことが加わり、九〇年二月に七・九%であった一〇年国債のクーポン・レートは低下傾向を続け、九八年一〇、一一月には〇・九%に低下した。

また二〇年国債の発行金利も一・五%という、歴史上希に見る低金利となった。これは、わが国の第二次世界大戦期の三・五%(一九三六~四五年)はもとより、一九世紀ビクトリア王朝期のイギリス国債(一八九七年の二・二五%)やアメリカの戦時国債の金利(一九四一年の一・八五%)をも下回る、歴史的な低金利であった。こうした金利低下の影響で、国債残高が急増したほどには、九〇年代には国債利払い費が増えなかった。

実際、利払い費は、国債残高が一四五兆円であった八六年度に一〇兆円を突破したが、残高がその倍となった九八年度補正後予算でも一一・二兆円と大きくは増加していない。それ以前に発行された高金利の国債が、次々に満期を迎え、低利の国債に借り換えが進んできたからである。

しかし、金利が上昇を始めると、国債費は拡大する。九九年一月に「中期財政試算」とともに発表された「国債整理基金の資金繰り状況等についての仮定計算」によれば、二〇〇八年以降の借換国債の発行額は毎年一〇〇兆円にも達することになっており、金利が上昇した場合、国債費の急増は避けがたい。それによって財政赤字がさらに拡大するという悪循環に陥ってしまう。

このため、財政の健全性は、プライマリー収支と呼ばれる国債費を除いた財政収支の大きさで判断される。九八年度第三次補正後の一般会計はGDP比三・二%ものプライマリー赤字を発生させている。これに対して、九七年のイタリアは国と地方を合わせてGDP比六・八%のプライマリー黒字であった。

しかも、九九年から通貨統合が始まったことを受けて、イタリアでは国債金利が低下している。だが、わが国では、長期的に国債金利が九八年のように低い水準で安定し続けるとは考えにくい。歳出の拡大は、政治で制御することができない利払い費にとどまらない。むしろ政治によって歳出拡大への圧力が高まることが懸念される。実際、財革法が改正され、さらにそれが凍結されるや否や、九九年度の当初予算では一般歳出は五・三%も拡大した。

当初予算での一般歳出の伸び率としては、七九年度以来実に二〇年ぶりの高い伸び率である。最大の歳出項目である社会保障費は、財政構造改革法では二〇世紀中の三年間は毎年の伸び率を二%以下にするというキャップがかけられ、そのもとで制度改革を促進することとされていたが、財革法が停止された九九年度予算では八・四%も拡大した。本格的な高齢化がこれから始まろうとするのに、である。

こうした現在の予算が置かれた状態は、その姿を将来に単純に投影することによって浮き彫りにすることができる。九九年一月に発表された「中期財政試算」は、今後の名目GDP成長率を「構造改革のための経済社会計画」が描く一・七五%と三・五%を前提としている。一・七五%成長の場合には、約四五兆円の一般歳出を毎年一〇〇〇億円ずつ削減して、国債発行額はようやく横ばいで減少しない

自然増収一兆円に対して、国債金利を三%とすると毎年の国債費の増加が八〇〇〇億円程度に達し、また税収増加の約三割相当の三〇〇〇億円が地方交付税に回されるからである。また、三・五%という高い名目経済成長率を見込んだ場合、自然増収は約二兆円となるが、国債金利は四・五%程度となり国債費は毎年一・六兆円ほど増加する。

このため、一般歳出を横ばいに抑制するとしても、国債発行額はかろうじて横ばいで減少しない。そして、国債発行残高の対GDP比は九八年度末六〇%から二〇〇三年度には約八〇%に拡大することになる。

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